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タオと猫の庭

アイデンティティー

竹村公太郎『日本史の謎は「地形」で解ける』を読みました。

今まで歴史というと文系の視点だと思っていましたが、

インフラという地形学の角度から歴史を見ると

こんなふうに人の考えや流れがクリアに見えてくるのかと驚き桃の木山椒の木でした。

竹村さんの目には、どんな景色を見ていても、ビルや道路を取っ払った土地の裸の姿が見えるみたいです。

それどころか、平安京や平城京、江戸の町が見えているかのようです。

古地図や資料を補足すれば、インフラ屋さんの立場から、昔の人の遷都の理由や街作りの様子が簡単に推理できてしまうらしい。

すごい。おもしろい。

その手口は、綿密なシャーロックホームズやコロンボの推理みたい。

それが今まで信じられてきた歴史の事実を覆すのに、驚かされます。

文献が残っていても、なぜそういう行動を取ったのかまでは書かれていない。

その部分は、史家が想像して作り上げるわけですが

固定観念に捕われていると、他の説を唱えるところにまで頭が回らない。

竹村さんは、地形を見ながら、「まてよ?」と思うところから

始まるわけです。

歴史の固定観念をひっくり返したいくつもの例のどれもが面白かったです。

ひとつのことを徹底的にやって、並外れた知識を持っていると

こうして道場破りみたいに、異分野にも乱入できるのですね。

この本を読むと、今さらながら、江戸時代の礎を築きあげた家康の未来を読む確かな目と辛抱強さとしたたかさと…に恐れ入ります。

日本の豊かな森と水を制して、泥沼だった関東を都にした家康の執念に。

その粘液質な性格が子々孫々と続いて

江戸という堅固な文化を作り上げたのがよくわかりました。

家康は日本最大の土地プランナーだと書いてあったけれど

たしかに、湿地だった関東平野が、時代を越えた治水事業によって

首都東京を含む、人口集中地帯になって栄えているのですものね。

さあ、家康が現代人だったら

原発だとか、TPPだとかどんな答えを出しただろうか。




おもしろかったのは、吉原の移転の話です。

振袖火事によって、吉原は日本橋付近から浅草の日本堤に移転しますが

これは風紀上の問題だとかふたたびの出火を恐れてだとかの理由で論じられている。

インフラやさんはこう説きます。

遊郭や芝居小屋を日本堤に移すことで、人の往来ができ、土手が踏み固められ、強くなる。

また人の目が絶えずあることで、防犯の役目も果たす。

江戸幕府の巧妙な策略です。

同じように墨田堤には桜が植えられ、ここも人の往来によって踏み固められてきた。

広重の浮世絵の中に、その「証拠写真」があります。堤の上を歩く大勢の人々の絵が…。


また赤穂浪士の討ち入りが成功したのも、実は吉良という幕府にとっての目の上のたん瘤を

始末する為、幕府は見て見ぬふりをした。 

この裏づけは、浪士たちが、裏門と思われているが実は正門である半蔵門付近に

匿われて住んでいたこと。家康が建てた泉岳寺に葬られたこと、などからわかる。

そしてその泉岳寺は、東海道に面していて、たくさんの旅人がお参りできるようになっていたため

赤穂浪士の物語は、君主に忠義を尽くす物語としてひろまり、ひいては日本人のアイデンティティーそのものになっていく。

春の桜の下での浅野内匠頭の切腹から、雪の討ち入りまで。

桜を見て心が騒ぎ、雪を見て心がさわぎ…というのも、日本人の血がなせる業なのか?

それにしても日本は、ほんとうに水と緑の島国なんだなと思います。

三浦しをんさんの「神去なあなあ日常」を続けて読み

湿気と妖しさと森羅万象のエネルギーを感じました。

人間は森羅万象の中のほんの一部分です。なあなあ。
by f-azumi | 2014-06-07 15:27 |
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